3人の男たちは何を思うのか。
『No Country for Old Men』は、アイルランドの詩人W・B・イェイツ(1865〜1939年)の詩「ビザンチウムへの船出」の冒頭の引用です。
2007年度の第80回アカデミー賞で8部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞の計4冠を受賞したこの作品は、同時にハビエル・バルデム演じる冷酷無比な殺人鬼が齎す圧倒的な暴力描写が話題になった問題作でもあります。
ここではコーエン兄弟監督の話題作、映画「ノーカントリー」について解説しています。
ビザンチウムへの船出の冒頭の引用です。以下のように続きます。
それは老いたる者たちの国ではない。
恋人の腕に抱かれし若者たち
樹上の鳥たち
その唄と共に、死に行く世代たち、
鮭が遡る滝も、鯖にあふれた海も、
魚も、肉も、鶏も、長き夏を神に委ね
命を得たものは皆、生まれ、また死ぬのだ。
映画の内容は過激なので人を選ぶかと思いますが、考えさせられる作品となっています。
2005年に発表されたコーマック・マッカーシーの小説『血と暴力の国』(原題: No Country for Old Men,扶桑社ミステリー文庫)が原作である。コーエン兄弟は映画の撮影を2006年5月23日に開始、主にテキサス州やニューメキシコ州を中心にロケーション撮影が行われた。
第60回カンヌ国際映画祭、第32回トロント国際映画祭などで先行上映された後、2007年11月9日にアメリカの一部の映画館で限定公開された。同年11月21日に全米公開され、アメリカとカナダで約7400万ドル、それ以外の国で約8700万ドルの興行収入を挙げた。コーエン兄弟制作映画としては、2003年に公開された『ディボース・ショウ』を上回るヒット作となった。批評家たちからも絶賛を受け、コーエン兄弟の監督としての名声をより確固たるものにした。
2007年度の第80回アカデミー賞で8部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、助演男優賞、脚色賞の計4冠を受賞。その他にも受賞多数(受賞した映画賞の一覧は下部に掲載)。日本でも2008年度のキネマ旬報外国語映画ベスト・テン第1位を獲得した。
コーエン兄弟は本作品を、自分たちが監督した映画の中で飛びぬけて暴力的な作品だと語っている。アメリカではR指定、日本ではR-15指定を受けた。
注意:以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。ご注意ください。
舞台は1980年のアメリカ合衆国テキサス州西部。凶悪化する犯罪を憂う保安官エド・トム・ベル(トミー・リー・ジョーンズ)の語りを背景に、脱走した殺し屋アントン・シガー(ハビエル・バルデム)が殺人・強盗を繰り返すシーンから物語は始まる。
一方その頃、銃を持ってプロングホーンを撃ちに行ったルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)は偶然にも殺人現場に遭遇する。状況からすると麻薬取引がスムーズに進まず、途中で銃撃戦に発展したようだ。死体の転がる中を歩くモスは、麻薬を積んだトラックの運転席で息も絶え絶えになっているメキシコ人を発見する。いろいろと質問するモスだが、相手の言う言葉は「アグア」(スペイン語で「水」の意)のみ。その後、モスは事件現場から少し歩いたところにあった男の死体から札束の詰まったブリーフケースを発見し、自宅に持ち帰る。しかしその夜、運転席で苦しんでいた男のことが気にかかったモスは水を持って現場に戻るが、不運にも戻って来たギャング達に発見されてしまう。命からがら脱出したものの現場に置き去りにした車から身元が割れ、モスは金の発見を請け負ったシガーに追われる身となるのだった。
危険を感じたモスは妻カーラ・ジーン(ケリー・マクドナルド)をバスに乗せて実家に帰し、自身はモーテルに潜伏する。しかし金の入ったブリーフケースには発信器が隠されており、シガーはそれを頼りにモスの滞在するモーテルを発見する。シガーがメキシコ系の別の追っ手と交戦中、モスはからくも逃走する。次に潜んだホテルの部屋で発信器の存在に気付いたモスは、これを逆手に取ってシガーを返り討ちにしようとするが、激しい銃撃戦の末どちらも重傷を負う。シガーが傷の治療に時間を取られているうち、モスは国境を越えてメキシコに到達、現地の病院に入院する。
入院中のモスに面会に来たのは、賞金稼ぎのカーソン・ウェルズ(ウディ・ハレルソン)だった。ウェルズは麻薬ディーラーから金の奪還を命じられており、金と引き換えにモスの命を守るという交換条件を出すが、モスはこれを拒絶。その後米国内のホテルに戻ってきたウェルズはシガーに殺害される。その時ウェルズの部屋に電話をかけてきたのはモスであった。シガーは電話を取り、二人の会話が初めて実現する。モスが自分の手で金を持ってくること、そうすれば妻に手出しはしないと約束するシガーだが、モスはこれも拒否し会話は終わる。
米国に戻ってきたモスは妻のカーラ・ジーンに電話し、彼女の母親ともどもエル・パソのモーテルで落ち合うよう打ち合わせる。モスに会うためにベルもエル・パソに向かうが、モーテルに到着直前にモスは殺害され金は消えていた。後日、ベルは元保安官だった叔父と会って引退の意思を話す。時代の流れに伴って凶悪化する犯罪がその原因だが、叔父はこの地域はもともと暴力的な土地であり、一個人の働きで状況が変化するようなものではないと説き、ベルをたしなめる。
母親の葬儀から帰ってきたカーラ・ジーンは家の中で待ち伏せていたシガーと対面する。シガーはモスと交わした会話に基づいて彼女を殺害しなければならないと説明するが、気を変えコイントスでカーラ・ジーンが勝てば命を助けると言い出す。表か裏か。彼女の答えは「賭けない」であった。入り口のドアから出てきたシガーはブーツの裏に返り血が付いていないかをチェックする。そして車で走り去ろうというところを交通事故に遭う。シガーは左腕を骨折し、頭部から流血しつつも、警察が到着する前に姿をくらますのだった。
物語はベルが妻と話をしている場面で幕となる。ベルは妻に、気になる夢を二つ見たと語る。最初の一つは短い夢で、ベルが父親から貰ったお金を無くしてしまうというもの。二つ目はベルが雪山で馬に乗っていると、また馬に乗って松明を持った父が通り過ぎて行く。顔を伏せつつ先に行った父は、ずっと先の方で冷たい闇の中に炎をともし、ベルが来るのを待っているだろう。そこで夢は終わったという。映画は静かに幕を下ろす。
| 役名 | 俳優 | 日本語吹替え |
|---|---|---|
| エド・トム・ベル保安官 | トミー・リー・ジョーンズ | 菅生隆之 |
| アントン・シガー | ハビエル・バルデム | 谷昌樹 |
| ルウェリン・モス | ジョシュ・ブローリン | 谷口節 |
| カーソン・ウェルズ | ウディ・ハレルソン | 乃村健次 |
| カーラ・ジーン・モス | ケリー・マクドナルド | 小林沙苗 |
| ウェンデル保安官助手 | ギャレット・ディラハント | 加瀬康之 |
| ロレッタ・ベル | テス・ハーパー | 小幡あけみ |
| エリス | バリー・コービン | 大塚周夫 |
| ウェルズの雇い主 | スティーヴン・ルート |
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